横綱・鶴竜の引退にあたって、これまで私のブログでは鶴竜に対してはスポットを当ててこなかったので、これを機に今回は少々鶴竜に対して思う事を書きとめてみたいと思います。

私の鶴竜に対する人物評は「存在感の無さ」という事に尽きます。

それは言い換えれば華が無いという事かもしれません。しかし成績で見ると優勝6回優勝同点も2回とその実力は間違いなく横綱です。
鶴竜の横綱昇進に際して、人によっては「稀勢の里の為に用意していた準ずる成績込みでの昇進枠に先に入った存在」と見る方もいるみたいですが私はそうは考えておりません。

確かに平成以降で連続優勝の原則を初めて崩して昇進した鶴竜ですが、その昇進前二場所での成績は14勝同点―14勝優勝です。

貴乃花や武蔵丸などが何度も横綱昇進を跳ね返された「連続優勝が原則」の一番厳しかった時代でも、この成績を残したのならばおそらく昇進してましたでしょう。
その根拠としては1994年7月場所、若乃花は14勝次点の成績で翌場所が綱取り場所となりました。

しかしそうは言っても当時はやはり連覇主義の強い時代。
当時の出羽海理事長は綱取り場所中に「若乃花は確かに14勝したけど優勝したワケでも無し、ホントに綱取りの候補なのかな」と難色を示した事も確かです。
ですが、注目すべき所はその二日後の出羽海理事長の発言です。

「若乃花には悪い事を言った。まだ全勝優勝でもしたら分からないからガッカリしないで頑張ってほしい」

なんと出羽海理事長自身が前言を撤回しているのです。

このように、連続優勝原則の時代はたしかに準ずる成績を認めがたいという雰囲気はあったでしょうが14勝と言う数字に関して言えば理事長ですら少なくとも実質綱取り場所として認めざるを得ない、まさに立派な「準ずる成績」であったのです。

これがさらに時代が下って北の湖理事長の頃になると13勝次点でも準ずる成績とする雰囲気が徐々に出来上がってきました。

そして2014年3月場所、鶴竜がたまたま最初にそれまでは出そうで出なかった「優勝+準ずる成績」に合致する成績を出した事で横綱に昇進したというだけの話なのです。
ですので、この「稀勢の里の為に用意していた準ずる成績込みでの昇進枠に先に入った存在」という鶴竜の見方は甚だ見当違いもいいところなのであります。

私が最初に言った「存在感の無さ」。それはおそらく白鵬との対戦成績の弱さにも一因があるのだと思います。
白鵬との幕内対戦成績は8勝42敗、稀勢の里が白鵬に勝つ可能性を持つ力士として注目されたのとは打って変わって、これでは「今度も敗けるな」という感じで見られても不思議ではありません。
しかし、それでも地味にコツコツと白星を積み重ね、気が付けば「14勝での優勝」という事が鶴竜には4回もありましたし、横綱昇進時には出来なかった連続優勝も達成しました。

白鵬・日馬富士・稀勢の里という華を持つ横綱に比べれば自己主張の少ない鶴竜はどちらかと言えば地味だったのでしょう。
それでも鶴竜という自分のペースで勝ち進み、着実に横綱や優勝を掴むタイプの横綱を、私はダークホース的な存在と捉えて毎場所注目していました。

横審より激励が出た後の二場所は晩節を汚した感は否めませんが、横綱・鶴竜に対しては楽しませてくれてありがとう、お疲れ様でしたと感謝と労いの言葉を送りたいと思います。






今場所、貴景勝の優勝により「大関の優勝」を2017年1月場所の稀勢の里以来、久々に見る事が出来ました。
そこで今回はこの貴景勝を綱取りの観点から探っていきたいと思います。

その前に、2020年の綱取り研究家としての論評ですが
今年の大相撲では優勝決定巴戦になるのではと思わせられる場所も多かったですし、それによって「大関による12勝同点」が見られるかもと期待した場面もけっこうありましたが、なかなかそう上手くはいきませんでした。

また、大関の準優勝としては7月場所の朝乃山と9月場所の貴景勝がどちらも12勝次点と健闘していましたが
朝乃山の場合は5場所連続二桁勝利での12勝次点でしたが新大関の場所でもあり伊勢ケ浜審判部長が時期尚早との見方をしたため綱取りとはならず
貴景勝の場合も前の場所が角番でしかも8勝と勝ち越してからの休場という事もあり綱取りの見方自体が皆無となっておりました。
しかし今場所、貴景勝が13勝での優勝を飾った事でついに来場所は綱取り場所となります。

はたしてどこまでの成績ならば横綱に昇進するのでしょうか。
もちろん優勝なら連続優勝となりますので横綱に昇進となります。
問題は「準ずる成績」となった時の話でしょう。
12勝次点だと稀勢の里にならって「1年間の成績」という見方がなされて綱取りは継続となる事が濃厚でしょう。
14勝の場合は同点・次点関係なくそれだけ星を積み上げたのならば昇進でしょうし、13勝でも同点ならまず昇進だと思います。
次に13勝次点ですが、この場合は3場所前から見ると12勝次点―13勝優勝―13勝次点となり、ここで3場所前の12勝次点が活きてくる形になってくるのではと思いますのでおそらくは昇進の方に秤が傾くのではないかと考えます。
最後に12勝同点の場合ですが、綱取り場所での12勝同点は柏戸というイレギュラーな例しかないために判断が難しいですが、好材料を探すとすると今年の「年間最多勝」を取ったという実績があり、これがどこまで昇進に効いてくるのかは未知数ではありますが、稀勢の里でその実績は参考にされた事例を見るに昇進は議論になってくる所だと思います。


というワケで、もし貴景勝が来年の初場所で準優勝だった場合という仮定の元で簡単に研究した結果でありますが
ずばり13勝次点12勝同点、ここら辺がおそらくボーダーラインとしてそれまでの成績やらその場所の相撲内容やらという言い方で揺れ動く事となるはずであり、さらにここで両横綱の進退という外的要因も絡んで来ることかと思います。
正直、どうなるかは一概には言えませんし、もちろん来場所も優勝をしてスッキリとした昇進をした方が良いのかもしれませんがどういった結果になるのか。綱取り研究家としてもここら辺を楽しみに観ておきたいと思います。




以前に私は、横綱昇進のボーダーラインとして
12勝準優勝13勝優勝」「12勝優勝13勝準優勝」「13勝準優勝12勝優勝」「13勝優勝12勝準優勝
くらいが準ずる成績でのギリギリの横綱昇進基準となってくるのではないかと説明しました。

そこで今回は、そのボーラ―ラインを超えたにも関わらず見送られた例を見ていきたいと思います。


見送られた例を見ていく前に一応、二場所で12勝以上の優勝と準優勝で横綱昇進を果たした例を紹介します。

初代若乃花    12勝次点(3差)―13勝優勝
佐田の山    13勝次点(1差)―13勝優勝
輪島        13勝次点(1差)―15勝優勝
北の湖        13勝優勝―13勝同点
千代の富士    13勝次点(1差)―14勝優勝
隆の里        13勝次点(1差)―14勝優勝
北勝海        12勝優勝―13勝次点(2差)
鶴竜        14勝同点―14勝優勝
稀勢の里    12勝次点(2差)―14勝優勝


以上の9例が昇進となっておりますが、詳細は前回ほか何度か説明してるものも多いので割愛させていただきます。


次に、二場所で12勝以上の優勝と準優勝で横綱昇進を見送られた例です。

柏戸        13勝優勝―12勝次点(1差)
玉の海        12勝次点(1差)―13勝優勝
北の富士    12勝次点(1差)―13勝優勝
大乃国        15勝優勝―12勝次点(2差)
貴乃花        14勝優勝―13勝同点
武蔵丸        12勝次点(2差)―15勝優勝
魁皇        13勝優勝―12勝次点(1差)
白鵬        14勝優勝―13勝次点(1差)


以上の8例が残念ながら横綱昇進を見送られております。

上の横綱昇進を果たした例と比べても遜色の無い成績を上げたものもありますが、運が悪かったようなものもあります。

一応、前提として「綱取り場所での12勝は優勝以外見送られる」という不文律がまことしやかに浸透しております。
これに対して唯一の例外は柏戸の12勝同点での横綱昇進ですが、この昇進自体が大鵬との同時昇進の為の異例の処置としてまさに「例外」とする向きがあります。
確かに、この柏戸の例を除くと優勝以外の12勝で昇進した事例はありません。
しかし実際には相撲協会や横審より「12勝の準優勝でも昇進の議論になる」とされた綱取りは存在します。
研究しただけでも3代目朝潮、玉の海、北の富士、清国、大乃国、貴乃花、魁皇、白鵬がそのように言われ、把瑠都なども口の軽く、いい加減な鶴田横審委員長によって一応はそのように言われた事もありました。

そうは言っても実際に12勝準優勝での横綱昇進が柏戸以外出て来ていないため、未だにこの不文律に固執する人が大勢ではありますが、私に言わせれば
昔より、状況に応じて出てくる「12勝の準優勝でも昇進の議論になる」という言葉が全てではないかと思っております。


ところで、これら見送られた8例の中で唯一、昇進の機運が皆無であった事例があります。
それは武蔵丸で、当時は連続優勝が原則の時代であり優勝して初めて綱取りの起点となるため、この12勝次点では綱取りのつの字も出ませんでした。
武蔵丸はこれ以降も大関で13勝同点の成績を2度出しておりますが、これらも綱取り起点と認められないなど綱取りに関してはかなりの不遇となっております。

その他、綱取り場所で優勝した玉の海北の富士の事例は共に諮問まで行ったものの横審より見送られ
逆に綱取り場所で準優勝だった残りの事例は審判部より見送りとなっております。

綱取りに成功した9例のうち7例は綱取り場所優勝のため、やはり尻上がりに調子の良い方が昇進の機運も盛り上がり横綱も誕生しやすいという事なのでしょう。


さらにこれらで注目すべきところは、昇進相当の成績を出したにも関わらず惜しくも見送られたために後の綱取りが甘めになったという所です。

柏戸玉の海はまさにここで昇進してもおかしくない成績だったという理由から後の「11勝―12勝同点」や「13勝優勝―10勝―13勝同点」での甘めの横綱昇進に繋がっていきますし
北の富士・大乃国・白鵬は翌場所、12勝準優勝でも議論になると昇進に甘めの設定がなされましたし
貴乃花に至っては実際に翌場所の12勝次点で数人の横審が昇進に賛成の姿勢を表しております。もっとも、貴乃花の場合はここで昇進出来なかった事により連続優勝の時代が始まってなかなか昇進できなくなってしましますが…


最後に、魁皇だけが昇進相当の成績を出して見送られた力士の中で唯一の大関止まりとなっております。

ところで、この間の日曜日にNHKで放送された大相撲特別場所を観ていると魁皇の五回目の優勝とその綱取りをやっておりましたが
綱取り場所、魁皇が朝青龍に勝てば横綱昇進の可能性もあったという事は一切スルーされてそんな事実など無かったかの様に朝青龍に勝って綱取りが翌場所に繋がったという表現で一貫しておりました。
2004年の九州場所千秋楽、朝青龍に勝った段階で魁皇にかなりの昇進のムードが高まっていた事は当時の放送を観ていた人では御存じの方もいるでしょうし、昇進しないだろうと冷めた目線で見ていた人でもあの勝った瞬間では五分五分ではないかと思わせる程の熱狂ぶりがあった事は覚えてる人もいるかと思います。
この間の放送ではその「これで横綱昇進なのではないかという熱狂」が、「綱取りが翌場所に繋がったための熱狂」へとすり替えられておりました。
これはまことにNHKの恣意的な編集だったと思います。






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